食品経営支援協議会の専門家によるコラム。今回は農業の現場支援で感じる現状をお届けします。

 

みなさん、こんにちは。食品経営支援協議会(FMSC)理事の秋島  一雄です。

数年前からご縁があって農業従事者の方への支援を、時々させていただくことになりました。といってもその中身は、品種改良や収穫の仕方ではありません。事業運営承継問題および従業員教育といった内固めの内容と、ブランディングによる付加価値向上や農産物の販路開拓といった外攻めの内容の支援です。
いつも感じているのは、商工業と同じところでのお悩みの方が多く、6次化を図っている農家は食品小売や飲食業と同じ課題を抱えているケースが大半です。誰もが頑張りたいという気持ちは高いのですが、どこにどれ位力をいれるのか、指摘と支援が欲しいという内容中心となっています。  

今回はその典型的なケースとして、野菜と果物を中心に生産と販売をしながらその一部を加工して食品(ジャム)の製造販売しているA農園の若手2代目経営者、その話の一部をご紹介したいと思います。

○本当にかかった費用は?

2回目の面談で冒頭に言われたのが、「最近、緊急性が多いことに振り回され、今後事業をどうするか?」といった事に向き合う時間が取れていないとのことでした。1回目の面談で宿題としてお願いした事業計画書作成は、ほぼ手を付けずの状態でした。もちろんやる気がない訳ではなく、加工食品の赤字増への対策があったからとのことです。販売先に何とか交渉して売価を上げて黒字にした、そのことに忙殺されていたとのことでした。
しかし、その売価もヒアリングをしてみれば、廃棄ロスやアルバイトへの残業代そして同氏の労働時間のコストは含まれていないことが判明し、価格交渉後の上がった価格でも、結局のところ加工食品は赤字のままでした。
そこで大変恐縮ながら、価格改定後でも厳しい採算であることや投下する労力が大きいとの指摘をさせていただき、加工食品の製造は撤退を提案しました。もし販売先だった相手が製造を引き受けるのであれば、A農園は材料提供というケースのみ継続ということで、我々の話し合いは決着となりました。

その後の顛末としては、販売先も最初は驚いていましたが、この申し出を受けることで、事業継続となったとのことです。

○事業計画はなぜ作れないか?

この2代目経営者は、柔軟性も高く知識欲もお持ちなので、時間さえあれば事業計画をしっかり練ることができる方でした。また、経営も本気でやれば出来る筈ですが、現状はできていません。そして、それは経営者の労働時間の長さに問題がありました。
同氏が農業に従事している時間は、朝5時から夜9時位までといったロングランです。さらにそのあと軽く仮眠をし、2時間後から加工食品関連を中心とした業務作業をおこない、また仮眠を1時間ほど取って朝5時を迎えるのがサイクル、と笑って教えていただきました。これでは、若い間の一瞬であれば対応ができても、そもそも継続的にやることは不可能で、体調を壊すリスクが大と指摘させてもらいました。

元々農業に従事している方は非常に真面目で、黙々と仕事をする方ばかりです。ただ日常業務から一旦離れ、俯瞰して物事を考える時間も経営なんだ、という視点を持って欲しいと提案させてもらいました。

○そして、事業承継の話も

同氏の近くの農家さんもご多分に漏れず、70歳から80歳の高齢が多く、農地を手放す可能性も高くなっていますが、その土地を賃貸とする場合でも地元の人間以外はダメ、といった考え方をお持ちの方が多いとのことでした。だから、若手の農業経営者である同氏には、そこそこの頻度で譲渡話が来るそうです。しかし、同氏も大きな働き手であるお母さまが高齢で、あと2年ぐらいで現在の作業は引退したいと表明されいるとのことでした。つまり、同農園も近い将来に体制を整える必要があるといった似たような状態だったわけです。
そこで、これを機にそもそも経営者として何をやりたいのか?5年後にはどうなりたいのか?という本質論からいくつかの提案をさせてもらいました。そして、何よりもご自身の時間が大事なものであり、借りることのできない無二の経営資源であることを認識していただくように依頼しました。
どうしても重要度は高いものの緊急度が低いものが後回し(例えばブランド戦略)になり、結局は何もできないという経営者は農商工を通じて多くいらっしゃいます。我々もこの点を踏まえて、実行管理のサポートとしての助言や励ましが必要である、と感じています。

この農園の経営者は、若く体力と意欲も高く地元での評価も高い方ですが、今が正念場であり、何よりもうまく離陸ができるようなサポートは、支援をしながら不可欠と感じていました。
現状の「強み」を発揮し、さらに未来を実りあるものにするためにも、十分に睡眠時間を確保(!)することで研ぎ澄まされた感性を維持し、農業経営をされていくことを祈念しております。 

私共の一般社団法人食品経営支援協議会では、様々な事業経営に関しての研修やコンサルティングを含めたトータルなご支援をおこなっています。お気軽にご相談ください。https://fmsc.or.jp/contact/

執 筆 者

秋島 一雄
一般社団法人 食品経営支援協議会 代表理事
中小企業診断士  / 東京商工会議所中小企業相談センターコーディネーター  / HACCP コーディネーター / 産業能率大学兼任講師

総合商社の営業マンから経営コンサルタントとして独立。中小企業専門のコンサルタントとして、東京商工会議所を含め公的機関にて年間200件以上の経営支援実績がある。また販路開拓・マネジメント・海外展開・創業塾等の研修・セミナーの講師も務め、その現場感覚のある指導でリピーターも多い。

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