食品経営支援協議会の専門家によるコラム。今回は厚労省が発表している「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象である、小規模な事業者についてお伝えします。

みなさん、こんにちは。食品経営支援協議会(FMSC)理事の秋島  一雄です。

2021年61日は、前年の6月に施行された改正食品衛生法の1年間の経過措置が終わり、完全施行となります。その結果、食品等事業者は、「HACCPに沿った衛生管理」を実施しなければなりません。そして主に検疫所と保健所に所属している食品衛生監視員による、営業許可の更新時や定期的な立入時に実施状況を確認されることとなります。(衛生管理の実施状況に対しては、今回は新しい制度なので、当分の間は導入の支援やアドバイスが中心となる見込みです)

本稿では、対象を小規模な事業者に絞って、その留意点をお伝えします。

1:小規模な事業者(厚労省は営業者と表記しています)とは

厚労省からは、この小規模な事業者は以下の5つのパターンで定義しています。

  • 食品の製造や加工する事業者であり、その施設に併設か隣接した店舗において製造や加工した食品を小売販売する事業者
  • 喫茶店を含む飲食店営業と調理する事業者
  • 容器包装に入れられるか包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する事業者
  • 食品を分割し容器包装に入れるもしくは包みで、小売販売する事業者
  • 食品の加工や製造・貯蔵や販売もしくはその処理する営業を行う事業者

また、その具体例として、①はお菓子や豆腐の製造販売・食肉や魚介の販売、等があり、②は惣菜やパン製造業・学校/病院等の集団給食施設等があり、④は八百屋・米屋・コーヒーの量り売りがあり、⑤の場合の人数のカウントには経理や営業といった製造部門以外で食品等の取扱いのしていない人数は含めません。

2:小規模事業者はどう対応をすべきか?
業界ごとの手引書(厚労省のホームペーから

上記での該当する小規模事業者は、その業界団体が作成した手引書(厚生労働省が内容を確認した手引書:厚労省のホームページに掲載)を参考に、簡略化されたアプローチでの衛生管理を行えばよいことになります。

その具体的な流れは以下の①~⑥で、これを実施していれば、厚労省が定めて基準をクリアしていることになります。(以下、厚労省の原文をそのまま引用しますと)

  • 手引書の解説を読み、自分の業種・業態では、何が危害要因となるかを理解し、
  • 手引書のひな形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備し、
  • その内容を従業員に周知し、
  • 手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録し、
  • 手引書で推奨された期間、記録を保存し、
  • 記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書の内容を見直す

つまり、ご自身の業界の手引書をしっかり見て、衛生管理計画や手順書(マニュアル)をつくり、それに対してPDCA対応をしていけば良いことになります。これが、「簡略化されたアプローチでの衛生管理」ということになります。

最初は手間であることは間違いないですが、よく1:10:100の法則を言われるように、この1の努力が能率向上や無駄の解消で10の利益を生み出し、食中毒発生等の万が一での回収や対応のコスト100を防ぐことにもつながります。自社・自店の継続した経営のためにも、衛生管理を作成し、その運用と記録取りをしましょう。

3:まとめとして、基本的な考え方

今回のHACCPに沿った衛生管理の制度化で、小規模な事業者のすべきことは、PDCAを回すことに尽きます。

つまり、先週お伝えした「一般的な衛生管理」の基準、これをベースに「HACCPに沿った衛生管理」に基づいた「衛生管理計画」の作成(そこには手順書=マニュアルの作成も含みます)といったPlan、これらを従業員全員に周知徹底を図った上で実施のDo、そして記録と保存やその効果を定期的に検証するといったCheck、最後に今後の状況変化に応じて見直しのAction、をしていくことになります。

更に、以下のような指摘も厚労省から出されています。

  • HACCPに沿った衛生管理の制度化は、衛生管理の手法(ソフト)に関するものなので、施設や設備(ハード)の新設や変更の必要はありません。
  • 衛生管理の実施状況については、これまでと同様に、営業許可の更新時や保健所による定期的な立入等の機会に、食品衛生監視員が確認を行います。新しい制度ですので、当面の間は、導入の支援・助言が中心となります。分からない点は食品衛生監視員に相談しながら進めてください。
  • 第三者認証の取得は義務ではありません。
  • 罰則の適用は、これまでの制度から変更は無し、通常は、以下の流れになります
  • 衛生管理の実施状況に不備がある場合、まずは口頭や書面での改善指導が行われます。
  • 改善が図られない場合、営業の禁停止等の行政処分が下されることがあります。
  • 行政処分に従わず営業したときは、懲役又は罰金に処される可能性があります。

上記の中で、特に誤解されているのが、です。「HACCPに沿った衛生管理」はソフトの面であり、「取るものではなくやるもの」であり、第三者の認証は必要ないということです。(勿論、保健所の食品衛生監視員から提出依頼をされたら、

「計画と記録を出せる状態」にしておく必要はあります)

さらに、食品衛生社内で衛生管理のできる人材(これは先週の「一般的な衛生管理」の①食品衛生責任者等の選任にあたります)を育て、その人中心に実施していくことです。顧客と自社を守るためにも、これらのPDCAをシンプルに回していくこと、これは実は事業規模に関わらず、食品衛生管理の基本になります。

一般社団法人食品経営支援協議会では、このHACCPへの理解を深めるためのマイスター習得セミナーを含めた様々研修やセミナーをご提供しています。お気軽にご相談ください。https://fmsc.or.jp/contact/

執 筆 者

秋島 一雄
一般社団法人 食品経営支援協議会 代表理事
中小企業診断士  / 東京商工会議所中小企業相談センターコーディネーター  / HACCP コーディネーター / 産業能率大学兼任講師

総合商社の営業マンから経営コンサルタントとして独立。中小企業専門のコンサルタントとして、東京商工会議所を含め公的機関にて年間200件以上の経営支援実績がある。また販路開拓・マネジメント・海外展開・創業塾等の研修・セミナーの講師も務め、その現場感覚のある指導でリピーターも多い。

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